一時保護の「個別ケア」に、誰が責任を持つのか?

様々な事情により子どもたちが一時的に滞在する緊急シェルターが一時保護施設です。そこでは、子ども一人ひとりに合わせて対応するのが理想です。しかしそのための職員も部屋も足りないとき、現場はどうすればよいのでしょうか。今月適用の一時保護ガイドラインの改訂を機に、スマホ利用と過密の問題を中心に個別ケアを実現する責任を考えます。
和田一郎 2026.10.23
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はじめに

2026年9月30日、一時保護施設での保護と里親・施設等への委託を扱う一時保護ガイドラインの一部改正がこども家庭庁から通知され、今月10月1日から適用されました。今回の改正の中心は、一時保護を委託する相手の登録制度と、委託先で行われるケアの質の確保です(こども家庭庁, 2026b)。

今回の改訂をめぐって、私は一時保護施設の職員を対象とする研究会や調査などで一時保護に関わる複数の職員にヒアリングをしました。その中で、スマートフォンの個別利用への対応は難しいという声が繰り返し出てきました。職員が隣にいれば安全を確保できるのか。その間、ほかの子どもには誰が対応するのか。現場からすれば、どちらも毎日の仕事に関わる切実な問題です。

職員の立会いによるスマホ利用は、2024年版のガイドライン改定で既に例示されていたものです(こども家庭庁, 2024b)。しかし2026年になっても、私が話を聞いた職員からは、難しいという声が繰り返し出ています。この2年、個別対応を行うための人員や場所は、どこまで整ったのでしょうか。子どもに合わせたケアを求めながら、判断と事故の責任を現場へ残してしまってはいないか。今回は、ガイドラインができた経緯からたどり、この問題を考えてみたいと思います。

1. 一時保護ガイドラインは、なぜ必要になったのか?

保護した子どもは、そこでどう暮らすのか

一時保護は、虐待などの危険から子どもの安全を迅速に確保し、心身の状態や家庭の状況を把握するための制度です(厚生労働省, 2022)。保護の判断が遅れれば、取り返しのつかないことになります。そのため、まず危険な場所から離すという判断が求められます。いわゆるシェルター機能です。おおよそ公的には、児童相談所にある「一時保護所」、そして児童養護施設や乳児院などにも一時保護委託ができるのですが、併せて一時保護施設と呼ぶようになりました。

では、その後、シェルターに入った子どもの生活はどうでしょうか。ある日突然、家を離れ、学校や友人とのつながりも変わります。身の安全が確保されても、知らない大人や子どもたちの中で、不安を抱えながら過ごす子どももいるでしょう。保護された後の生活をどう保障するかは、一時保護の大きな課題でした。

一時保護ガイドラインの通知が出たのは、2018年7月6日です。それまでは児童相談所運営指針の中にあったものを独立させ、自治体や関係者がケアの見直しに取り組むための指針としました。背景には、一人ひとりに合った対応の不足、自治体によるケアの違い、通学できないことによる学習権の問題、保護期間の長期化などがありました(厚生労働省, 2022)。

そのガイドライン設立の土台になったのが、子どもを権利の主体とすることや家庭養育優先の理念を明確にした2016年の児童福祉法改正と、2017年の「新しい社会的養育ビジョン」です(厚生労働省, 2022)。子どもが保護されてからも、自分の生活について意見を伝え、その子に合ったケアを受けられるようにする。個別ケアは、この流れの中で求められてきました。

親に居場所を知られると危険な子どももいれば、安全な親族との連絡が心の支えになる子どももいます。通学に危険を伴う子どもと、学校に通い続けられる子どももいます。それぞれ事情が違うのに、一つの施設に入ったという理由で同じ制限を受ける。その運用を見直そうとしてきたわけです。

ところが、導入をめぐる議論は、そう単純ではありませんでした。私はこうした問題を考えるとき、まず都心よりも地方の自治体の現場の話を聞くようにしています。そこで痛感したのは、同じ「一時保護施設」でも、子どもたちの暮らしを支える条件が大きく異なるということでした。

これは読者の方々で現場の方々は実感している方も多いと思いますが、研究者や弁護士、議員の訪問を積極的に受け入れる施設には、定員に対して入所児童数に余裕があり、職員も個別の対応をしやすいところがありました。そもそも外部の人を受け入れても、研究者が子どもに聞いても「後ろめたくない、恥じることがない」運営をしている自信です。本人が希望すれば学校に通い、休日には子どもが外で遊び、例えば魚釣りに出かける。連携している公立図書館で子どもたちは本を借り、職員と一緒にスーパーへ買い物に行く。家庭での日常に近い暮らしを、以前から大切にしてきた自治体もあるのです。

一方、都市部の一部の施設では、まったく違う状況がありました。定員を超える子どもを受け入れ、もともと2人部屋だった部屋に二段ベッドを3台置き、6人で生活させる。各種制度で規定された一人当たりのスペースなどガン無視せざるを得ないほど、どんどん子どもが保護されてきます。他法で言えば生活保護の救護施設などの基準以下、刑務所等の一人当たりのスペース以下しかない時もあります。それでもベッドが足りず、学習室や食堂で寝せるようなことも「現在でも」あるのです。都市部では、保護する子どもが増えても、居室や職員は十分に増えない状態が続いています。こうした過密と人員不足のもとで、生活の隅々まで一律のルールで管理する運営になっているという話を嫌と言うほど聞いてきました。一人当たりの子どもの数が多く、ぎゅうぎゅう詰めな場合、強権的な管理体制になっていくのは戦前のあのドイツの事例を見てもお分かりかと思います。

そしてそのような施設は口々に、視察などについては「外部の人間が入ると子どもが不安定になる恐れがある」という主観だけで拒んできました。

「男女で目を合わせてはいけない」「トイレに行くときは手を挙げて許可を求める」。さらには、ルールが細かく定められ、それに反したとして正座をさせる、謝罪文を書かせる、グラウンドを何周も走らせるといった対応についても何度も耳にしました。一時保護の後に少年鑑別所や自立支援施設などを経験した子どもから、「一番きつかったのは一時保護所だった」と聞いたこともあります。すべての都市部の施設がそうだという話ではありません。しかし、現在でも子どもを守る場所で、こうした経験が語られていることは重く受け止める必要があります。

私は常々、「虐待は都市問題でもある」と述べてきました。問題が起きるのは都市部ばかりなのです。これはいわゆる一時保護を経験した「当事者」のかなり詳細なコメントがあります。本学でも毎年保護施設を経験した学生が私のところに立ち入っていますが、未だに「昭和かよ」の酷い仕打ちをしている自治体があることに驚愕しています。しかしそれらは全て「都市部」の児相であり、リソースが抜本的に足りていないのです。都市部で多くの保護需要を受け止めているのであれば、それに見合う人員や施設を整えるべきだと考えてます。過密や人員不足を現場の努力、思いと熱意だけで乗り切ろうとすれば、子どもの生活にしわ寄せが及びます。事情の厳しさを理解することと、権利を制限する対応を容認することは、分けて考えなければなりません。

こうした都市部と地方の現場の違いは、ガイドラインをめぐる議論にも影を落としていました。地方の現場からは、大都市の児童相談所の経験を持つ研究者や関係者の意見が重視される一方で、ゆとりある各地域の中で子どもの日常を守ってきた実践が十分に反映されているのか、という疑問が聞かれました。都市部の専門家ばかりが集まり、あの都市部の権利保障の面で課題を抱えてきた運営が十分に検証されないまま、その経験が全国共通の指針の前提になってよいのか。私自身も、こうした問題を指摘し、批判を受けてきました。

都市部か地方かという区分だけで、施設の良し悪しが決まるわけではありません。それでも、入所児童数、居室の広さ、職員の配置によって、実現できるケアに大きな差が生じています。ガイドラインで望ましい対応を示すのであれば、それを可能にする条件を国と自治体がどう保障するのかまで、併せて議論する必要があるのです。

2024年には設備と運営の基準が整えられた

ガイドライン改正は続きました。2022年改正後の通知には、2019年、2020年の改正履歴も記されています。その後の大きな転機が、2024年3月30日の全部改正です。2022年の児童福祉法改正を受け、2024年4月からは、一時保護施設の設備・運営に独自の基準が施行されました。子どもの意見を聴くこと、必要な説明をすること、正当な理由のない権利制限を避けることなどが、施設運営の基準として位置づけられました(こども家庭庁, 2024a, 2024b)。

子どもの意見を聴けば、それに応じて支援を調整する仕事が生まれます。通学を希望する子どもには、安全を確かめて学校との調整をしなければなりません。集団での生活が負担になる子どもには、落ち着いて過ごせる場所も要ります。個別ケアを行うには、職員の時間と生活空間を確保することが、最初から必要だったのです。しかし、私が話を聞く現場からは、今も十分に確保できていないという声があります。そうです、定員以内の児童であれば、各種法令に基づくスペースがあります。しかし都市部は100%どころか150%を超えるほどの入所率になるのです。廊下や学習室で寝ることもあるのです。施設基準など作っても、子どもの人権は守られないのです。生活保護基準以下のスペースです。別の見方をすると、いま保護しなければ大変な子どもを救ったと言えるでしょう、しかし、その反面、それで一保にいる子どもの人権が侵害されているのです。ですから、一時保護のリソース、リソース、リソースと繰り返ししているのはそこなのです。しかしガイドラインができても、都市部は相変わらずその対応ができていない現状です。

さて、2025年6月には、一定の場合に一時保護の開始について裁判官の審査を必要とする制度の施行に合わせて改正されました。同年10月には保護者との面会・通信に関する制度改正への対応、12月には「子ども虐待対応の手引き」から一時保護の記述を移して整合を図る改正が続いています(こども家庭庁, 2025a, 2025b, 2025c)。

保護を始める判断、その後の暮らし、保護者との接触について、制度と指針が整えられてきました。今回の改正は、その上に、委託先での保護を支える仕組みを加えるものと読めます。

2. 2026年10月の改訂で、何が変わったのか?

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