「贅沢ですか?」と問う前に——生活保護世帯の大学進学で、本当に問われていないのは何か?

生活保護家庭から大学進学することについて、「世帯分離」を用いることは適切なのでしょうか?ほかに良い制度はあるのでしょうか?様々な世の中の移り変わりを踏まえながら、皆さんと一緒に考えたいです。
和田一郎 2026.09.14
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はじめに:当該記事に同意しながら、それでも書く理由

2026年9月5日、生活保護世帯かつヤングケアラーの家庭から東京大学に現役合格した方の論説が掲載されました(清野, 2026→これを、「当該記事」とします。)。要旨は、生活保護を受けながらの大学進学は認められておらず、進学するには「世帯分離」しかないが、世帯分離をすると親の保護費が減るため家族と対立する、そして進学後にアルバイトで収入を得ると、今度は日本学生支援機構(JASSO)の家計基準に本人の所得が合算されて減免も給付型奨学金も使えなくなる、というものです。9月11日には、ABEMA Prime に出演され、同じ3点を「お金の壁」「ヤングケアラーの壁」「制度の壁」として語られました(ABEMA Prime, 2026)。

この主張には、正しいところがいくつかあります。大学進学については、1963年の通知を根拠に「大学進学は最低限度の生活に含まれない」としてきた国の説明は、進学率が61.4%に達した現在(文部科学省, 2025)、もはや積極的な根拠を持っていません。

しかし記事は、3つの点で論点をずらしています。第1に、世帯分離で保護費が減ることを制度の欠陥として書いていますが、自立した1人分の生活費を計上しなくなるのですから、減るのは当然です。議論の余地なしです。それでもらっていたら不正受給です。第2に、記事が「警察沙汰にまで発展した」と書いた対立の中身は、著書の公開部分を読むかぎり、家事をやめて勉強を始めた高校3年生から父親が教科書を奪おうとし、「息子が暴行してくる」と通報した、というものでした(東洋経済新報社, 2026b)。これは制度が生んだ対立ではなく、ヤングケアラーではなく児童虐待の領域です。第3に、「所得ありとみなされて打ち切られた」という記述には金額が書かれていません。親が生活保護であれば生計維持者の課税額は0円ですから、区分は本人の所得だけで決まり、東大やJASSOの基準から試算した限り、少なくとも年収200万円を超えなければ第3区分から外れません。月にすれば17万円から18万円は稼いでいたことになります。つまりぼやかしているのです。

番組で、ひろゆき(西村博之)氏がこう言われました。—これは生活保護の話ではない、大学に行きたいと言っている子どもの進学を止めてでも自分の手持ちの金を増やしたいという毒親の問題と、ヤングケアラーの問題であって、生活保護とごっちゃにしない方がいい—。まさにこれなのです。私は、生活保護と大学進学の論はもう終わっていると考えていて(ですから今回しっかり書こうとしています)、生活保護出身で進学した方々で、メディアに出る方の思考が本当に似通っていて、”「世帯分離」で大学進学を認められないのは適切ではない!”なのです。これは明らかに筋が悪いのです(その趣旨でXに投稿しました)。一般的に、このような事例の助言としては、ひろゆき氏と同等、そのような家庭から出て、新たに生活する。つまり「別世帯」になることが最も適切なルートと考えられるのに、大学に行ってまで、そのような家族に依存せざるを得ない筋が悪い制度が世帯分離です。

私が本当に危惧しているのは、同居のままの世帯分離という「福祉の阿吽の呼吸」(過去記事「期限切れパン」事件が映す、日本のソーシャルワークの転換点:参照)が、親による搾取の温床になっていることです。同居で、自立した人の生活保護は出ないが、電気やガス、水道、食糧費がかかる。その内訳はどうなっているか?それを、現場は阿吽の呼吸でやってきたのです。しかし、もうそれが限界にきていることはその記事で述べました。結論として、大学進学については世帯分離という曖昧な運用を拡張するのではなく、一人の世帯として進学した若者への支援を設計しなおすべきだと考えます。なお、著者はすでに学部を卒業され、現在は法科大学院に在学しておられます。記事が問題にした制度は、大学院を対象としていません。この点は第8章で書きます。

そして、はじめに、私は、この記事を書かれた方の訴えの、大部分に同意しています。

生活保護を受けながら大学に行けない。この一点をめぐって、私はもう10年以上、注目してきました。どこかの大学で2つ目の博論を書こうと思ったくらいです。これほど問題点が明快で書きやすい領域はないからです。

生活保護の進学支援については、2018年の改正で進学準備給付金ができ、同居のまま進学する場合には住宅扶助を減額しない扱いになりました(厚生労働省, 2018)。それでも、大学生本人は保護の対象から外れます。生活保護世帯の子どもの大学等進学率は、2024年4月1日時点で40.6%、大学・短大に限れば24.2%です。全世帯はそれぞれ76.4%、57.7%であり、およそ半分程度です(厚生労働省, 2023)。

このことは、当該記事にも書いてあり、筆者の憤りも否定しません。17歳や18歳の若者が、学費と生活費の不安と親の生活支援を同時に背負わされて、受験勉強しながら制度を調べながら進学したように見えます。おそらく全部一人でやったはずです。親には頼れなかったと思います。その経験を実名と顔を出して書くことには、相当の覚悟が要ったはずです。それは尊重されるべきです。

それでも私が今回書くのは、この訴えが「制度が悪い」という一点のみに絞られていく中で、いくつかの重い事実が隠されているように見えるからです。私は児童福祉を児童相談所の児童福祉司の側から、そして生活保護のCWとして現場を見てきた者として、おそらく著者が書けないであろう領域に踏み込みたいと思います。それは著者を責めるためではありません。この記事を読んだ多くの人が「かわいそうだ、制度を変えよう」で止まってしまうと、次の子どもが、同じ家の中で同じ目に遭うからです。より良い制度とは何か?を皆さんと議論したいと思います。

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